
人的資本経営とは?注目されている背景や情報開示で企業が行うべきこと
今や多くの企業が関心を寄せる人的資本経営ですが、その詳細や、人的資本に関する情報開示が求められる理由や範囲までは、あまり知らないという場合も少なくないのではないでしょうか。人的資本経営のメリットを最大限享受するためにも、人的資本経営を取り巻く環境や実行時のポイントをおさえておきましょう。人的資本経営のための最適なツールも併せてご紹介しています。
目次[非表示]
- 1.人的資本経営とは?
- 2.人的資本経営が求められている背景
- 2.1.人材不足の深刻化
- 2.2.ステークホルダーの意識の変化
- 2.3.人材・働き方の多様化
- 2.4.競合優位性を保つため
- 2.5.人的資本情報開示の義務化
- 3.企業が人的資本経営に取り組むメリット
- 3.1.従業員の能力を可視化できる
- 3.2.生産性の向上につながる
- 3.3.離職率の低下につながる
- 3.4.企業のブランディングにつながる
- 4.人材版伊藤レポートから見る人的資本経営とは
- 4.1.人材戦略に必要な3つの視点(3P)
- 4.2.人材戦略に必要な5つの共通要素(5F)
- 5.「人的資本可視化指針」とは
- 6.有価証券報告書の開示義務について
- 7.企業が人的資本経営の情報開示に向けて必要なこととは?
- 7.1.ISO30414に準拠した情報開示を行う
- 7.2.管理職の価値観や信念の変革を促す
- 7.3.人事情報や研修情報の整理・管理をする
- 7.4.人材育成の効果測定を行い、PDCAを回す
- 8.LMSの導入は人的資本経営の第一歩につながる
- 9.LMS導入なら「etudes」をご利用ください
- 9.1.社員情報を一元管理することが可能です
- 9.2.多彩な研修スタイルに対応可能です
- 9.3.受講管理やアンケート実施も効率化できます
- 10.まとめ
人的資本経営とは?
人的資本経営とは、経営の様態の一つで、「資本」である人材の価値を、投資により可能な限り発揮させ、企業の価値を中長期的に向上させることです。類似の語に「人的資源」というものがありますが、これは、人材を他の物的資源と同様、消費される経営資源の一つとみなし、いかに配分するかといった点にフォーカスするものとなっています。しかし、人材不足の叫ばれる昨今では、もはや従来の人材消費では、企業の中長期的な成長は見込めません。そのため、現在は「人的資本」として、人材の能力において、消費するのではなく、いかに適切な投資によって価値を最大化するかという点に着目するようになっています。
人的資本経営が求められている背景
人的資本経営は国内でも、今や大企業のみならず、中小企業までもが注目するようになりました。この動きには、人的資本経営が求められている次のような5つの背景があります。
- 人材不足の深刻化
- ステークホルダーの意識の変化
- 人材・働き方の多様化
- 競合優位性を保つため
- 人的資本情報開示の義務化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
人材不足の深刻化
日本国内では少子高齢化が進行しており、人材不足は今後も続いていくことが予想されています。このような状況の中では、高い技術を持った人材や、スキルのある人材を確保することは難しいでしょう。
そのため、企業にすでに働いている人材を持続的に育成していくことが求められています。既存社員を継続的に育成することで、帰属意識も高まり、離職率を減らすことにもつながるでしょう。
ステークホルダーの意識の変化
人材不足に加えて、ステークホルダーの価値観や評価基準が変化したことも、人的資本経営が求められる理由の一つです。
例えば、企業の持続的成長における重要な要素のESG(環境:Environment, 社会:Social, 企業統治:Governance)やSDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は、企業評価の観点の一つとなっており、人材への態度や貢献度も利益と同様に重視されています。
投資家を始めとするステークホルダーは、企業の将来性を判断するため、人的資本の開示を求めるようになっているのです。
人材・働き方の多様化
人材不足から、外国人労働者やシニア世代など、さまざまな人材の登用が増えてきています。また、女性活躍推進法などの公布などにより、女性が働き続けられる環境を整えている企業も少なくありません。
近年ではコロナ禍や働き方改革の影響からリモートワークやフレックスタイム制など、働き方も多様化してきています。
こうした社会の変化を受けて、社員1人ひとりにあわせた働き方でパフォーマンスを最大限に引き出すための人的資本経営が注目されているのです。
競合優位性を保つため
人材不足の状況のなかでは、初めから有能な人材を獲得することは非常に困難です。
こうした状況下では、時間やコストをかけてでも今ある人材の価値を最大化することが、企業の中長期的な成長への近道となります。加えて、新規に事業を創出し、業界で優位性を獲得するためにも、人的資本に対する環境の構築が必須です。
人的資本情報開示の義務化
2022年、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。改正案には、人的資本情報の開示も含まれており、
- 人材育成方針
- 男性の育児休業取得率
- 女性管理職比率
- 男女間賃金格差
などを対象とする見込みです。義務化の対象となるのは、有価証券報告書の提出義務がある企業ですが、ESGが企業の評価基準となってきている昨今では、義務化の対象外の企業に対しても、投資家等から開示の要請を受ける可能性もあります。こうした点から、人的資本経営に取り組むことは、企業の生存戦略にも関わるとも言えるでしょう。
参考:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について
企業が人的資本経営に取り組むメリット
必要性の高まる人的資本経営ですが、人的基本経営を行うことによって、企業側にはどのような利益がもたらされるのでしょうか。実際には企業によって多少なりとも差異が現れますが、基本的なメリットは、次の4つです。
- 従業員の能力を可視化できる
- 生産性の向上につながる
- 離職率の低下につながる
- 企業のブランディングにつながる
従業員の能力を可視化できる
一つ目のメリットとして挙げられるのは、従業員の能力を可視化できることです。従来型の人的資源に基づいた経営戦略では、従業員は個々人の能力において配備されるという形式でした。そのため、人材そのものを管理するという方向に焦点が当てられ、能力の把握は詳細にはされることが少ない傾向にあります。一方で人的資本経営では、人材資本に投資して活用・成長を目指すため、従業員の能力に重点を置いて、能力やその効果を見える化することが可能です。
生産性の向上につながる
企業全体の生産性の向上につなげることができるのも、人的資本経営の大きなメリットの一つです。従来のように、採用活動で有能な人材を獲得して従業員を揃える手法では、個人の持つスキルに依存して業務の生産性が左右されてしまいやすいという問題がありました。しかし、人的資本経営は、人材の育成を行うため、企業に必要な教育をまんべんなく施すことができ、業務スキルの統一がしやすく、従業員全員が利益に貢献しやすくなるという利点があります。
離職率の低下につながる
働き方や考え方の変遷による、若年層の離職率の増加は昨今の人事での大きな問題の一つとなっています。離職の原因は、「やりがいに欠ける」「自分のワークスタイルに合わない」等といったものがあります。しかし、人的資本経営であれば、個々の人材に合わせた投資を行うため、従業員のエンゲージメントを向上させたり、フレキシブルな働き方を提供したりすることが可能です。こうした点から、人的資本経営は、離職率を抑制し、長期的な勤務につなげることができるといえます。
企業のブランディングにつながる
人的資本経営を行っているということは、人材に対し、働きやすい環境や必要な教育、成長機会等を与えているというアピールポイントにもなります。このアピールポイントは、採用活動において競争力を高めることになるため、優秀な人材の獲得につながります。また、投資家に対しても、企業の成長性をアピールすることが可能です。
人材版伊藤レポートから見る人的資本経営とは
「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」に基づく最終報告書「人材版伊藤レポート」は、長期的な企業価値の向上を目指し、経済戦略と連携した人材戦略の実践についてまとめています。本記事では、人材版伊藤レポートから、次の2つをご紹介します。
- 人材戦略に必要な3つの視点(3P)
- 人材戦略に必要な5つの共通要素(5F)
人材戦略に必要な3つの視点(3P)
伊藤レポートで挙げられている3つの視点(Perspectives)は、次の通りです。
- 経営戦略と人材戦略の連動
- As is-To beギャップの定量把握
- 企業文化への定着
人的資本経営では、経営戦略と人材戦略を連動するように考えることが求められます。
経営戦略と人材戦略を連動させるため、「経営戦略と人材戦略の連動に関する責任者を定める」「人材戦略の責任者が経営陣と積極的に議論して、直接示唆を得る」などの取り組みが伊藤レポートでは取り上げられています。
また、経営戦略と人材戦略を連動させるためには、現状(As is)と理想(To be)のギャップを可視化することが大切です。
目標とするビジネスモデルや経営戦略と、人材や人材戦略の現状とのギャップを数値化して把握し、定量把握のためには、情報管理の基盤を整備しておくことが必要になります。
人材戦略の実行プロセス内で、組織や個人の行動の変化を促進し、企業内で共有される価値観や理念、規範やルール等が定着しているかどうかということも重要です。
横のつながりだけではなく、上司等の縦のつながりも重視することで、新たな人材戦略の定着をはかることが有効です。
人材戦略に必要な5つの共通要素(5F)
伊藤レポートの挙げる5つの共通要素(Common Factors)は、次の通りです。
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
人的資本経営には、目標とするビジネスモデルや経営戦略の実現のための、多様な人材が活躍するポートフォリオを構築することが必要とされています。
動的人的ポートフォリオとは、社員個人のスキルや経験、在籍部署や在籍期間などの内容を記したものをリアルタイムに可視化できる状態のことです。人材情報をリアルタイムに確認できるようにすることで、効果的な人材配置が可能になります。
また、多様な個性や経験を持った人材がそれぞれを認め合い、特性を活かした企業活動が行われる環境を設けることも大切です。
さらには、必要なスキルを個々人の能力に応じて習得できる環境を整備する、または教育を施すことも重要です。社員が自らキャリアを見据えて学び直しができるように企業が支援することが求められています。
既存の社員を育成しても、辞めてしまったり転職したりしてしまっては意味がありません。そのため、多様な人材がそれぞれ主体的・意欲的に取り組める職場・労働環境を作り、社員にとって働きやすい環境を作るため、時間的・場所的制約なしにフレキシブルに働ける選択肢を持たせるなどが必要となるでしょう。
「人的資本可視化指針」とは
人的資本可視化指針とは、2022年8月に内閣官房が公表した、人的資本に関する情報開示のガイドラインです。この指針により、以下のような人的資本の可視化の方法が示されています。
- 企業・経営者が議論と説明を行う
- 人的資本への投資と競争力のつながりを明確化
- ガバナンス、戦略、リスク管理、指針と目標に沿った情報を開示
- 開示事項に応じた具体的内容を検討
また、準備→有価証券報告書に対応→任意開示を戦略的に活用、といった可視化へのステップも示されています。
「人的資本可視化指針」における4つの要素
人的資本可視化指針における4つの要素とは、ガバナンス、戦略、リスク管理、指針と目標を指します。この4要素は、人的資本の可視化のために、議論や論理的説明を行う際に有効です。ガバナンスは、人的資本に関連したリスクや機会に関する組織統治のことを、戦略は、リスクや機会が組織の経営戦略等に及ぼす影響のことをいいます。また、リスク管理は、リスクや機会を識別したり、評価したりするためのプロセス、指針と目標は、リスクと機会の評価・管理に用いるものです。
有価証券報告書の開示義務について
有価証券報告書の人的資本に関して義務付けられた開示項目は、次のようなものがあります。
- ガバナンス・リスク管理(+重要である場合、戦略・指標及び目標)
- 人材育成方針、社内環境整備方針およびこれら方針に関する指標の内容
- 委員会等の活動状況
- 監査状況、内部監査の実効性確保のための施策
- 政策保有株式の発行会社との業務提携の概要
- 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女の賃金の差異(女性活躍推進法等に基づいてこれらを公表する場合)
「人的資本、多様性に関する開示」の望ましい取り組み
サステナビリティ情報の開示においては、戦略・指標及び目標は、記載しない場合、その判断と根拠を明らかにすることが期待されています。その他、気候変動への対応が重要とされる場合は、人的資本可視化指針における4要素内で、積極的にその対応を開示することも重要です。また、女性管理職比率等、多様性に関する指標については、連結子会社ごとに指標を記載すべきであり、さらに、連結ベースの開示を行うことも望ましいとされています。
企業が人的資本経営の情報開示に向けて必要なこととは?
人的資本経営においては、情報開示が企業成長を成功させるうえで必須となります。情報開示に向けて企業がすべきことは、主に次の4点です。
- ISO30414に準拠した情報開示を行う
- 管理職の価値観や信念の変革を促す
- 人事情報や研修情報の整理・管理をする
- 人材育成の効果測定を行い、PDCAを回す
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ISO30414に準拠した情報開示を行う
ISO30414とは、国際標準化機構(ISO)による、人的資本に関する情報開示の指針です。コンプライアンスやコスト、ダイバーシティ、リーダーシップ、健康・安全、生産性、労働力等の領域において指標を策定し、人的資本の透明性を高めることを目標とします。この指針に準拠することにより、人的資本の正確な把握が行えるため、企業の発展を促進することが可能です。また、情報開示の観点からも、国際規格に則って情報を整理するため、人的資本情報の透明性を高めることもできるでしょう。
管理職の価値観や信念の変革を促す
人的資本可視化指針では、企業や経営者による、人的資本に関する緻密な議論とロジカルな説明が求められています。そのため、情報開示においては、まずは管理職が人的資本に関する情報を整理したり、新たに情報基盤を構築する必要があります。こうした情報に関する改革を行うためには、人的資本に関する現代の潮流と自社の方針に合った価値観や信念を、管理職自らが身に付けていくことが必須です。情報開示のために最適なマインドや観点は、必ず共有しておきましょう。
人事情報や研修情報の整理・管理をする
人事や研修の情報を整理・管理しておくことも重要になります。こうした情報は、担当者が異なったり、実施時期が異なったりするために、評価基準や指標が曖昧になることも少なくありません。しかしながら、人的資本経営のためには、定量的に人的資本を把握することが必要であるため、基準や指標が不明確である場合は、明確なものを導入しておきましょう。また、管理体制の構築や見直しも、整然とした情報には不可欠であることにも留意が必要です。
人材育成の効果測定を行い、PDCAを回す
人材育成の方針や手法についても、開示が必要になる場合もあるため、人材育成の効果測定は必ず行いましょう。また、効果測定を行ったら、その人材育成の手法について、改善点や利点を見出し、次の人材教育に反映させることも重要です。こうしたPDCAサイクルを回すことで、情報開示の際に、投資家や消費者、従業員等に対して詳細に説明が可能になります。また、情報開示以外の観点からも、企業として効果的・効率的な成長を見込むことができるという点で優れているといえるでしょう。
LMSの導入は人的資本経営の第一歩につながる
LMS(学習管理システム、Learning Management System)は、人的資本に対する投資の状況を一括して管理することが可能です。
また、教育状況を一元管理することによって人材育成の効果測定も行いやすく、人材育成の方針も立てやすくなるでしょう。
そのため、LMSを導入し従業員の教育状況を把握することは人的資本経営の第一歩につながります。
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まとめ
昨今の人材不足や、働き方や意識の変遷により、注目度が高まっている人的資本経営は、人材を「資本」と見て、成長に投資し、企業全体の向上を目指すものです。また、情報開示が求められる現状への対応を行うという点でも、重要視されています。人的資本経営の成功には、労働環境の整備はもちろん、情報の管理・整理も欠かせません。人材への教育投資と情報管理を同時に行うことができるのは、LMS「etudes」です。人的資本経営への転換をご検討の際には、ぜひご活用ください。